TATTOO COLUMN
頭部から顔面、そして爪先まで、まさに文字通りの全身刺青。
いくら日本が刺青に対して排他的な風潮があるとは言えども、ここまでの総身彫りとなると世界的にも稀と言える。
おそらくは日常生活にも支障をきたすはずのその異形を持ってして、長期に渡って小学校の事務職員を勤め上げ、
退職後は齢五十にして小説家に転身。
そんな異色の経歴を持つのが高村裕樹という作家である。
「どうして刺青にここまで心惹かれるのかはわからない、前世が関係しているかもしれないし、宿命と言うべきものなのかもしれない」
自分自身と刺青との切っても切れない縁を、高村はこう表現した。
現在、文芸社から既に四作品がリリースされているが、いずれもミステリーや恋愛といったような普遍的なテーマに、 ”刺青”というアクセントがごく自然に混在している。 確かに昨今のタトゥーカルチャーの隆盛に合わせて、刺青、タトゥーが登場する作品は、決して少なくはなくなってきた。 しかし、やはりどこか不自然であり、そしてわざとらしく感じる。 所謂ハードボイルドといった括りの作品に登場する彫り物を背負ったキャラクターは、出そうとして出している作者の思惑が見え隠れするし、映画やドラマでも刺青が入っているキャラクターはヤクザかアウトローが定番だ。 少なくとも、ここ日本においての刺青や、それと共にある生活のリアルというものを知っている人間が、文筆か映像かを問わず、それを作品化した事は 非常に稀なのではないだろうか。 針の痛み、マシンの音、完成した時の満足感、そして夏場に人混みで長袖を羽織るあの感覚。 そうした刺青と共に生活している人間ならば、当たり前に感じている感覚を、当たり前に表現できる数少ない作家の一人が高村裕樹という事は曲げられない事実だと断言できる。 目で見える高村の頭部は、お花畑や蝶、そして牡丹の刺青で彩られているが、その頭の中には一般人が想像できない奥行きの深い世界が広がっている。 その全身刺青という、一見の容姿がどうあれ、暴力沙汰や反社会的行為とは無縁の高村が綴る物語は意外にも美しい。
タトゥーナビ連載小説-刺青師牡丹- 2013年2月22日連載開始
本作はアートメイクサロンで働いていたごくごく普通の女の子が、タトゥーと出会い、それに惹かれ、そして彫り師を志すというストーリーとなっている。
しかし、それ以上の設定や物語の結末は我々も現段階ではわからない。
我々自身も、一読者として《刺青師牡丹》を読んでいこうという立場であるという事と、いたずらに口出しするのではなく、高村自身の書きたいように書いてもらう方が、読者の皆様にとっても面白いだろうとの結論に至った事がその理由だ。
彫っている人もこれからの人も、そして刺青に興味がない人も、まずは《刺青師牡丹》を楽しんでいただきたい。
-高村裕樹プロフィール-
愛知県名古屋市に生まれる。
高校卒業後に市の職員試験に合格し、夜間大学に通いながら小学校の事務職員として働き始める。
24歳で初めての刺青、上腕部に菊の花だった。
仕事に支障が出る事を自覚しつつも、その魔力に抗う事が出来ず、次々と刺青を彫り進める。
既に首や指先まで刺青が入っていた40代に、思いを押さえられずに顔にも刺青を施す。
ファンデーションを塗って小学校での勤務を続けるも、うつ病、緑内障が原因で退職。
作家へと転身し、現在文芸社から四作品を刊行。
ブログ
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