TATTOO COLUMN

最終話 明日への飛翔 ▼
前回までのあらすじ----------
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梨奈は黒姫組事務所の玄関前に立って、何度も腹式の深呼吸を繰り返した。 やや気分が落ち着いてきた。 すると扉が開いて、 「こんな時間に、何の用じゃい!」

と見張りの組員二人にすごまれた。 梨奈の姿は監視カメラで見られていたのだろう。 玄関から中に入るには、さらに頑丈そうな扉が設けてあった。 さすがに警戒は厳重だ。

「あの、すみません。 ここで働かせてください」

梨奈はこわごわ声をかけた。

「何? ここで働きたいだと? ここがどこだか、わかっているのか?」

組員の一人が意外そうに言った。

「はい。 私、好奇心から入れ墨をしちゃいまして、それが見つかって、会社、クビになっちゃったんです。 その後、いくつか面接など受けましたけど、入れ墨があると、なかなか採用してもらえなくて。 やっぱり不況の今は、普通の会社では働けないので、こちらで何か仕事をやらせてもらえないかと思いまして」
 


「ほう、おまえが彫り物をしてるんか。 何を彫ってるんだ?」

梨奈は左腕の袖を少しまくった。 寒い時季で、厚着をしていることを理由に、少しだけ腕の牡丹や蝶を見せた。 頭の入れ墨は、防寒用のニット帽子で隠している。

「なるほど。 こんな手首まで、それも和柄じゃあ、なかなか就職は難しいだろうな。 身体にも彫っているのか?」



「はい。 背中から太股にかけて、鳳凰を入れてます」



「俺たちでもそんな大物彫っているやつはそうはおらんぞ。 ちょっと見せてみろ」

門番は梨奈の入れ墨に興味を示した。

「でも、今は寒いので、ここで裸にはなれません」



「確かにそうだな」



「どうでしょうか、私をこの組で雇ってもらえないでしょうか? 掃除でも料理でも、洗濯でも何でもします。贅沢は言いません。私、もうお金がほとんどないんです。今の時期、住むところと食べ物を確保できるだけでいいんです」

梨奈の恐怖心も薄らぎ、スムーズに言葉が出るようになった。

「俺たちでは何とも言えないな。もっと上のもんに訊いてみなくては。よし、ではついてこい。ちょっと兄貴に訊いてやる」



「できれば、組長さんに直接お目にかかってみたいのですが」

梨奈はできるだけ上の立場の人と話し合いたいと思った。

二人の門番に連れられて、梨奈は事務所の奥に進んだ。 すると、廊下で、どこかで見たことがある男とすれ違った。 その男も梨奈に反応した。

「あれ、おまえ、確か彫甲のところにいる女彫り師では? 何でおまえがここにいるんだ?」

梨奈もその男が彫斉という同業者であることを思い出した。 彫斉は少し前まで、黒姫組の若い者に彫り物を彫っていた。

「さては彫甲を連れ戻すために来たんだな。どうしてここがわかったんだ?」

彫斉のその言葉を聞いて、やはり師匠はここにいるのだ、と梨奈は確信した。 梨奈は素早く携帯電話のメール発信ボタンを押した。 そのボタンを押すだけで、彫光喜のスマホに空メールを発信できるよう、予め設定してあった。 空メールを送れば、師匠がいる、という合図だ。

メール送付後、携帯電話を彫斉に没収されてしまった。 彫斉はまだ連絡する前に携帯電話を取り上げたと思っているので、梨奈がすでに仲間に連絡したとは気づいていなかった。

「おい、そいつを引っ捕らえろ。そいつは彫甲の手の者だ。彫甲のスパイだ」

門番たちは梨奈に襲いかかった。 梨奈としてはもうするべきことをし終えたので、抵抗することなく、門番たちに捕縛された。 あとは彫光喜と彫筑師匠を信じて待つのみだ。

梨奈は組長室に連れて行かれた。

「こいつが彫甲のところの女彫り師か。 なかなかかわいい顔しとるじゃないか。 ちょっと気が強そうだがな」

田所は梨奈のあごをつかみ、自分のほうに顔を向けさせた。

「あなたが組長なの? 師匠をどうしたのですか?」

梨奈は田所を睨みつけた。

「おう。やっぱり気が強そうだな。わしは気が強い女は嫌いじゃないぞ」

田所は梨奈の顔を見て笑った。

「彫甲は前に俺を侮辱したんで、親分さんに頼んで、制裁してもらうのだ」

彫斉が横から口を挟んだ。

「そうだ。君、彫甲なぞ辞めて、うちの組専属の彫り師にならんか? 優遇するぞ。君はけっこう腕もいいそうじゃないか。彫斉よりはよほどいい仕事をしてくれそうだ」

田所は梨奈に提案した。

「ちょっと親分さん、それはないですよ。それじゃあ私はどうなるんで?」



「そうだな。彫奈君が来れば、おまえはお払い箱じゃ」



「そ、そんな、冗談でもそれはひどいですよ」

彫斉が卑屈そうに田所に哀願した。

梨奈は師匠が他の彫り師を馬鹿にすることは改めてほしいと考えている。 けれどもそんな彫斉の姿を見て、彫斉に限っては、軽蔑されてしかるべき男だと思った。

「私は彫甲師匠の弟子です。師匠を裏切るつもりはありません」

梨奈はきっぱりと言い切った。

「そうか。わしのところに来るのはいやか。そんなに彫甲がいいなら、おまえの師匠のところに連れてってやろう」

梨奈は彫甲と美琴が監禁されている部屋にぶち込まれた。

「師匠!」



「彫奈か。何でおまえがこんなところに来たのだ?」

彫甲は梨奈を見て驚いた。

「大丈夫です。まもなく彫筑師匠が動いてくれます」

梨奈は彫甲の耳元で、小声でささやいた。

「師匠が? 師匠がわざわざ福岡から来てくれたのか?」



「はい。美琴さんがここにいることを奥様に連絡してくれて、奥様が彫筑師匠に相談したのです。私も初めて彫筑師匠にお会いして、すごい方だと思いました」



「美琴、おまえ、美好に連絡したのか?」



「はい。見張りの青年がお人好しで、iPhoneの充電器を貸してくれたので、少しの間、スマホが使えましたから」



「そうか。よくやった」

そう言いながらも、彫甲は事件が解決後、師匠や妻からかなりとっちめられそうだと覚悟した。 怖いもの知らずの彫甲も、さすがに師匠には頭が上がらない。



「師匠はやはり黒姫組に監禁されているのか」

梨奈からのメールを受け取り、彫光喜は美好にその旨を連絡した。 美好や彫筑、彫青龍が乗ったBMWもこの近くに来ているはずだ。

その後彫光喜は梨奈にメールを送ったが、返信がない。 おそらく梨奈も拘束されたのだろう。 彫光喜は黒姫組の者にメールを読まれても怪しまれないよう、梨奈から連絡があった場合、恋人からのメールを装った文面を送ることを取り決めていた。

彫筑は早速愛国青護会の代表に、できるだけ多くの街宣車で黒姫組の事務所を囲むように指示を出した。 ただし、極力住民とのトラブルを避けるよう徹底させた。 夜の闇の中、右翼の街宣車に事務所を取り囲まれれば、さすがの暴力団もびびるだろうと彫筑は考えた。

美好はまもなく右翼の街宣車が事務所の近くに来ることを彫光喜に伝えた。

しばらくすると、オートバイの爆音が近づいてきた。

「やあ、これは光喜先生、ご無沙汰しています。先生に彫ってもらった龍、気に入ってます。やっぱり“惡”一文字にしなくてよかったですよ」

声をかけたのは疾風韋駄天会のリーダー、鈴木だった。 10台近くのオートバイが鈴木に続いていた。

「なんで君たちがここにいるんだ?」



「ヨーコが知らせてくれましてね。先生や牡丹さんがピンチなので、加勢してほしいって」

本田が彫光喜の問いに答えた。

「ヨーコ、余計なことを。無関係な者を巻き込んではまずいのに」



「でも、万一の時に何かのお役に立てればと思いまして。腕っ節の強い奴らを10人ほど、揃えてきました。ヨーコも道場で留守番じゃやりきれないから、なんかの役に立ちたいと言っていました。そんなヨーコの気持ちをくんでやってくださいよ」



「わかった。でも、相手は暴力団だから、くれぐれも無謀なことはしないでくださいよ」

彫光喜のR2から少し離れたところで様子を窺っていたBMWは、たむろするオートバイの群れを見て近づいてきた。

「何だ? こいつら」

BMWを降り、彫青龍が彫光喜に尋ねた。

「あ、これは彫青龍さんですね。いつぞやは生意気なことを言って、すみませんでした」

本田が彫青龍に挨拶をした。 青龍は去年の春、本田に胸ぐらをつかまれたことを思い出した。

「おい、光喜、これはどういうことだ?」

「実は光洋が彼らに助っ人を頼んだんですよ」

最初はツーリングをしているときに偶然出会った、などと適当にごまかしておこうと考えた彫光喜だが、ごまかしきれないと思い直し、正直に打ち明けた。

「なるほど。あの小娘か。しかし暴力団相手に動いてくれるとは、なかなかしっかりした信頼関係を築いているものだな。頼もしいわい」

疾風韋駄天会の連中は突然出てきた彫筑を、(何だ、このじじいは)という目で見ていた。 しかしさすがに彫筑の威厳を感じたのか、

「この方はどなたですか?」

とリーダーの鈴木が丁寧な口調で尋ねた。

「おまえら、頭が高いぞ。このお方は、彫甲師匠の師匠であられる、日本一の彫り師、彫筑師匠だ」

彫青龍が時代がかった紹介をした。

疾風韋駄天会は鈴木と本田が代表で彫筑に自己紹介をした。 二人とも彫光喜に入れ墨を彫ってもらったことも付け加えた。 今回駆けつけた10人のうち、過半数が梨奈や光喜に彫ってもらっている。

「まもなく右翼の街宣車が来るが、それはわしたちの味方だから、驚かなくてもいい」

彫筑は作戦について彫光喜や疾風韋駄天会の連中に話した。

「すげえ、右翼の街宣車が来るとは、かっこええー」

韋駄天会の一人が驚いた。

「彫筑師匠の一声で、日本中の多くの右翼が動くんですよ。俺も今日初めて知ったのだけど、彫筑師匠は日本の右翼の総元締めみたいな立場なんですよ」

彫光喜は彫筑が右翼の総大将であることを手短に話した。

やがて3台の街宣車がやってきた。 夜遅い市街地なので、軍歌などは流していない。 街宣車には多くの構成員が乗っている。 真っ黒な街宣車の側面には日の丸を掲げ、“政治結社 愛国青護会”と団体の名称が大書されている。 隊員たちは迷彩色の戦闘服を着ている。

「すげえ。俺たち小さなゾクの集会なんか、街宣車に比べれば屁みたいなもんだ」

疾風韋駄天会の連中は大きな街宣車を見て興奮した。

黒姫組の事務所は、メインストリートの国道247号線から少し奥に入った、一方通行の狭い道に面している。 だから大きな街宣車が事務所の前に停まると、道をふさいで他の車が通れなくなってしまう。 通りがかった車はクラクションを鳴らす。 街宣車3台はそのときは道路を西の方向に移動し、国道247号線に出て、道を譲る。 しかしまた黒姫組の事務所の前に戻ってくる。 疾風韋駄天会の改造オートバイの爆音も混じっている。

そんなことを何度も繰り返した。

「おい、さっきから外が騒がしいな。いったいどうなっとるんじゃい」

黒姫組の若頭補佐が、若い者に外の様子を見に行くように命じた。

「兄貴、さっきから右翼の街宣車が事務所の前に停まっています。それも3台も。それに暴走族の野郎どももうろちょろと……」

「何だと? 右翼の街宣車がなぜうちの前に停まっているんだ? どこの団体だ? 暴走族もいるだと? 邪魔だ、すぐにどかせろ」

組員五人が抗議のために外に出た。 そして街宣車に近づいた。

「おい、こらぁ。てめえら、ここをどこだと思ってやがるんだ。こんなところにばかでかいクルマ置きやがって。とっととどかさんかー」

五人のうち、最上位の兄いが右翼の一人に食ってかかった。

「あんたら、誰だ? どこにクルマを停めようが、俺たちの勝手だろう?」

「たーけか! ここは駐車禁止だ。 とっとと失せろ! なんで右翼の街宣車がこんなところにいるんだ? アニソンでも流して、そこらへん走ってこんかい!」

「こんな夜遅く、アニソンなど流したら、迷惑でしょう。 あんたら、常識持ってるの?」

「常識がないのはてめえらのほうだろう? すぐどかさんと警察呼ぶぞ」

「どうぞ、呼んでください。 あんたら、人を監禁しているだろう? 俺たちもそのことを警察に言って、事務所の中を調べてもらうぜ」

「何だと? おまえら、何者だ?」

右翼の者たちが彫甲を監禁しているということを知っているようなので、兄いは驚いた。 そこに彫筑が黒姫組の若い衆の前に出た。

「誰だ、じじい」

「じじいとは失礼な。こちらは日本一の彫り師、彫筑先生だぞ」



「まあ、日本一は言い過ぎじゃて。日本にはわし以上の彫り師が何人もいる」

彫筑は右翼の一人を抑制した。

「わしは福岡で彫り師をやっている彫筑だ。ここに監禁されている彫甲の師匠にあたる者だ。彫甲が何か不都合なことをしでかしましたかな?」

いかにも好々爺という表情の中にも、黒姫組の兄いはただならぬ雰囲気を感じ取ったようだった。 彫筑に威圧され、しばらくお互いの顔を見合わすばかりで、何も言えずにいた。

「わしらは黒姫組と戦争に来たわけではない。ここは穏やかに話し合いたくてな。わしを組長に会わせてくれないか?」



「ちょっと待ってくれ。俺じゃあ何も言えん。兄貴に訊いてくる」

そう言って五人の若い衆は事務所の中に引っ込んだ。 しばらくして、若頭補佐が出てきた。

「あんたが福岡の彫筑さんですか? お名前はかねがね伺っていますよ」

若頭補佐は彫筑を組長の田所のもとに案内をした。 彫青龍たちが後に従おうとすると、

「あんたらはここで待っていてもらおう。

組長がお連れしろと言ったのは、彫筑さんだけだ」

と制した。

彫青龍が文句を言おうとすると、美好が押しとどめた。

「くそ、こんな寒いところで待たせるつもりか」

彫青龍は不平をかこった。

彫筑は事務所の奥にある組長室に案内された。 さすがに組長の部屋だけあり、厳重な警備だ。 監視カメラも何台か設置してある。

部屋には彫斉も呼ばれていた。 彫斉は一目彫筑を見て、圧倒された。 彫り師としての資質の次元が全く違うことに、すぐに気づいた。 これほどの威圧を感じたのは、間近で彫浪に会ったとき以来だ。

「これはこれは彫筑先生。遠いところからわざわざお越しとは。先生のご活躍はかねがねお聞きしていますよ。まあ、そこのソファーにかけてごゆっくり。今、酒を用意させます」



「せっかくだが、私は今、酒を断っていましてな。申し訳ないが日本茶にしていただけませんか?」



「それなら最高級の玉露を」

田所はお茶を持ってこい、と若い衆に命じた。

「ところで、今日ここにみえたご用件は?」



「もう報告は行っていると思いますが。 彫甲やその弟子の彫奈を監禁しているなら、即刻解放していただきたい」

彫筑は頭を下げ、単刀直入に頼んだ。

「そうですな。もう2日間も監禁したし、わしの昔の女を横取りしたといっても、たいして未練があった女でもないし。女も熨斗をつけて彫甲に贈ってやりますわい」

田所は快活に笑った。 田所としては、もうそろそろ頃合いかと考えている。 彫筑に頭を下げてもらったたことで、面目も立つ。 彫筑が多くの右翼団体を束ねているということを知っているし、現在3台の街宣車と暴走族のオートバイが事務所の前に停まっている。 面倒を起こさないうちに彫甲を解放してやろうという気持ちに傾いた。

それに彫甲や二人の女性の扱いに持て余してもいた。

「待ってください、親分さん。それじゃあ私の気が済みません。私は彫甲に晴れの舞台で屈辱を受け、臥薪嘗胆2年半を耐えてきたんですよ。もう少しいたぶってやらないと、弟子どもにも示しがつきませんよ」

彫斉がまだまだ恨みは晴れていないと田所に申し出た。

「彫斉さんでしたな。確かに彫甲には至らないところがあり、あなた方に迷惑をかけたこともあるかもしれません。よろしければ、彫甲がどんなことをしたのかをお聞かせ願いたい」

彫斉は初めて開催にこぎ着けた一門のタトゥーイベントでの屈辱を、彫筑に話した。

「なるほど。それは彫甲もやり過ぎましたね。昔の名人の作品でも、今の彫り師に比べれば、一見稚拙に見えるかもしれませんが、その稚拙に思われる中に、今の彫り師にはない気品、奥深さというものがあります。彫り師の作品は、一概に外見の優劣だけでは論じられない面がありますからな。とにかく彫甲の行為は、ひとのイベントに、土足で上がり込み、ぶち壊したようなものです。そのことについては、彫甲の師匠であった私にも監督不行き届きの責任があります。私からもお詫びします。しかしあなたも彫り師なら、その屈辱は、いい作品を彫ることで彫甲を見返してやってはどうですか? あなたもまだ若い。これから頑張れば、まだまだ伸びますよ。私はあなたの若さに羨望を感じます」

彫筑は穏やかに彫斉を諭した。 しかしまだ彫斉は収まらない。

「おい、彫斉。大先輩の彫筑先生もああ言ってくださるんだ。そろそろ矛の納め時じゃないのか?」

田所も引き際を誤るとあとで痛い思いをするぞ、と彫斉を説得しようとした。

「しかし弟子どもが……」

彫斉はこのまま引き下がっては、弟子どもに見放されてしまいそうで、怖かった。 しばらく彫斉は何も言えずにいた。

「そうですね。私の弟子の中に、かなり腕の立つやつがいて、そいつがいつも『彫甲のやつをぶっ殺す』と言っています。そいつと彫甲を戦わせてやれば、すっきりすると思いますよ」

彫斉は提案した。

「なるほど。おもしろそうだな。だが、勝ち負けにかかわらず、それでもう手打ちにしろ」

田所はその提案に賛成した。

「まあ、命のやりとりではなく、試合という形ならどうですかね」

彫筑はやむなく了承した。 ある意味、それが最もすっきりする解決法かもしれない。

彫斉は弟子に連絡をした。 ところが、その弟子は今朝から高熱を発しているという。 どうやら流行しているインフルエンザに感染したようだ。 この2日間、彫斉は黒姫組の事務所で仕事をしていたので、自分のスタジオの様子について、聞いていなかった。

「これは彫斉側の不戦敗だな。これでもう幕引きにしないか?」

田所は彫斉に言った。

すると黒姫組の若衆の一人が、

「その役、俺にやらせてもらえませんか?」

と挙手をした。 まだ25歳ほどの若い男だが、元プロ格闘技の選手で、その強さには幹部も一目置いている。 組の中でも、若手の戦闘員といえる連中を指導している。 また、田所の護衛なども引き受けている。 しかし気性が荒く、黒姫組としても処遇に手を焼いていた。

「三谷か。彫斉、どうかね? その弟子の代わりに三谷を戦わせてみるか? うちでは最も腕が立つ男だ。たぶんおまえの弟子より、強いと思うがね」



「はい。親分さんがそうおっしゃるなら……」

彫斉は黒姫組最強なら、おそらくうちの弟子より上だろうと考えた。 まあ、そいつが彫甲をぶちのめしてくれれば、俺のメンツも立つというものだ。

彫筑はやや心配だった。 彫甲の強さは認めるが、力士を引退して20年になる。 福岡で暴力団の用心棒をしていたときは、けっこうトレーニングもしていたようだが、彫り師になってから十数年、あまり身体を鍛えてはいない。 入れ墨の修業で、そんな余裕もなかった。

現役の戦闘部門のやくざが相手では、彫甲は勝てるだろうか。 万一勝てそうになければ、ひどくやられる前にタオルでも投げ入れるか。 今回は抗争でもけんかでもなく、あくまで試合だ、と彫筑は考えた。

いよいよ彫甲と三谷の試合が行われることとなった。 場所は事務所の大広間が提供された。 組の宴会などが催される部屋で、30畳ほどの広さがある。 損壊を考慮し、ふすまや貴重品などは取り払われた。 その場には彫筑以外にも、梨奈、美琴が招かれた。 彫斉は愛人や弟子の目の前で、彫甲がぶちのめされる場面を見せてやりたかった。 それも仕返しの一部だ。

彫甲は空腹であまり力が出なかった。 大食漢の彫甲は、ホカ弁一つではとても足りない。 けれどもこの決闘は絶対負けるわけにはいかないと、気合いを入れた。

若頭補佐の一人がレフェリー役を引き受けた。

「これはあくまでも試合であり、殺し合いではない。 どちらかが降参するか、戦闘不能になった場合は、試合をストップする」

試合に先立って、レフェリー役の若頭が注意した。 しかし三谷は彫甲を半殺しにするつもりだった。 堂々と相手をぶちのめすことができる。 こんな楽しいことはない。

「フォッフォッフォッ。 なかなかおもしろそうな見世物が見られそうだわい」

田所は組員たちに守られて、床の間の前の席を陣取った。

「師匠、頑張ってください! そんなやつ、やっつけちゃって」



「光廣さん、気をつけてください」

梨奈と美琴は彫甲に声援を送った。 しかし声援は圧倒的に三谷のほうが多かった。 パフォーマンスで四股を踏む彫甲には、ブーイングが巻き起こった。

試合が開始された。 対戦する二人は上半身裸になった。 三谷は現役の武闘派やくざらしく、筋肉隆々とした、見事な肉体美を誇っている。 それに引き替え、彫甲は現役時代はソップ型で、たくましく引き締まった体つきだったが、今は当時の筋肉が脂肪に変化したような、あんこ型に近い体型だ。

二人とも大きな彫り物が入っている。 三谷は背中に九紋龍史進、彫甲は花和尚魯智深で、どちらも水滸伝の英傑だ。 三谷の史進は彫斉の作品で、彫筑が彫った魯智深と比べれば、著しく見劣りがする。 それだけ見ていればそこそこの彫り物ではあるとはいえ、彫筑や彫甲の作品と比較されると、やはり分がわるい。 先ほど彫筑が言った、気品や奥深さもない。 外野から、彫り物では三谷の完敗だ、というため息が漏れた。

相撲の弱点は寝技がないこと。 三谷は寝技に持ち込み、彫甲の腕をへし折ってやる、と作戦を立てた。

試合開始と同時に彫甲は掌底突きを繰り出した。 しかし三谷は軽快なフットワークでこれを躱した。 そしてタックルで相手を倒そうとした。

ところが彫甲はなかなか倒れない。 力士は倒れた時点で負けとなるので、そう簡単には倒されない。 逆に彫甲は三谷の80kg以上ある身体を持ち上げ、そのまま投げつけた。 三谷は受け身をとり、ダメージを抑えた。 もし下が畳ではなく、屋外の固い地面なら、ここで勝敗は決まっていただろう。

立ち上がった三谷は作戦を変え、ローキックで彫甲のすねを狙った。 彫甲の100kg近い体重を支える下半身を蹴りつけることは、効果があった。 そして脚を絡ませ、彫甲を倒した。

「師匠!」

梨奈が悲鳴を上げた。

三谷は倒れた彫甲に関節技をかけようとした。 しかし彫甲は倒れた体勢から腰を持ち上げ、三谷にキックを浴びせた。 力士がそのような攻撃をしてくるとは思ってもみなかった三谷は、まともにキックを浴び、その場に倒れた。

三谷が倒れている間に、彫甲は立ち上がり、体勢を整えた。 彫甲は倒れている三谷を深追いすることはしなかった。 寝技が得意な相手に、下手に攻撃を仕掛ければ、墓穴を掘ることになる。

彫甲は相撲の弱点を知り尽くしていたので、暴力団の用心棒時代は、寝技に対する研究もしていたのだ。

彫甲は相手をつかまえようとした。 四つに組んでしまえば、相撲のものだ。 ベアハッグで締め上げてもいいし、相撲版関節技といえる小手投げで、相手の腕を痛めつけてやるのもいい。

しかし三谷も動き回り、なかなかつかまえることができない。

「おい、三谷、逃げ回ってばかりじゃつまらんがや。そんなに相撲取りが怖いか」

観戦している兄貴分が三谷にヤジを投げかけた。 三谷は 「ど素人のくせに」

とカチンときた。

三谷はパンチを繰り出した。 ボディーに何発もパンチがヒットする。 しかし巨体の彫甲にはあまりパンチが通用しない。 それで顔面に会心の一撃を入れてやろうとした。 大振りになったことがまずかった。 わずかな隙を突かれ、カウンター気味に彫甲の掌底突きを食らった。 三谷は吹っ飛び、たまらずダウンした。

三谷はなかなか起き上がってこなかった。 ルールにテンカウントダウンは謳われていなかったが、もう10秒以上は転がっている。 これが空手などの試合なら、完全な一本、ボクシングならKO勝ちだ。 彫甲は勝利を確信した。

「おい、大丈夫か」

彫甲は倒れている三谷をのぞき込んだ。 そのとき、三谷は彫甲の足を取った。 そして彫甲を仰向けにひっくり返した。

三谷は彫甲の、手首まで龍の彫り物が入った左腕をとり、素早く腕ひしぎ十字固めをかけた。 そしてぐいぐいと締め上げた。

「おい、卑怯だぞ。試合はもう終わりだ」

「うるせえ、だまされたほうがわるいんだ。それにレフェリーはまだおまえの勝ちを宣言してなかった。試合は続行中だったんだよ」

三谷は渾身の力で彫甲の腕を締め上げる。 たとえギブアップしても、放すつもりはない。 彫甲の腕をへし折る決意だ。 彫甲の顔は苦痛でゆがんだ。

「何よ、卑怯じゃないの。さっきの師匠の掌底突きで、もう勝負はついているはずよ」

「うるさい、小娘。油断した彫甲がわるいんだ」

場外で梨奈と彫斉が叫んだ。

このままでは彫甲の左腕が使い物にならなくなる。 そのことを心配した彫筑が、 「もうやめろ。彫甲の負けだ。だから放してやれ」

とタオルの代わりにハンカチを投げた。

「外部からの雑音は受け付けない。これは二人だけの勝負だ。彫甲はまだギブアップと言っていない。完全に白黒がつくまで、二人には戦ってもらう」

レフェリーが言った。

「レフェリー、何を馬鹿なことを言っている。もう勝負はついているだろ。親分さん、もう止めてくれ」

彫筑は田所に訴えた。

「この勝負はすべてレフェリーに一任してある。いくらわしが黒姫組の組長でも、口出しすることはできんよ」

田所は真剣な口調で言った。

三谷はさらに締め上げる手足に力を込めた。

「し、師匠、まだだ。まだ勝負はついちゃいない」

苦痛にあえぎながら彫甲は言った。

彫甲は渾身の力を込め、立ち上がろうとした。

「おまえ、馬鹿か。そんな状態で立ち上がることなど、できるものか。余計に腕を傷めるだけだ。そんなに腕を折ってほしいなら、希望通り今からおまえの左腕をへし折ってやる」

三谷は腕よ折れろ、といわんばかりに力を込めた。 だが彫甲はかまわず立ち上がった。 三谷を持ち上げる状態となった。

現役時代、自分よりはるかに重い力士をつり上げた彫甲の怪力は、衰えたとはいえ、まだ健在だった。 三谷の身体は高く宙を舞った。 その状態から、彫甲は三谷を頭から畳に叩きつけた。 脳しんとうを起こした三谷は、たまらず腕ひしぎ十字固めを解いた。

ふらふらと立ち上がった三谷に、彫甲は強烈なぶちかましを放った。 三谷の身体は何メートルも吹っ飛び、廊下の壁にぶつかった。 今度こそもう完全に立てなかった。

彫甲の勝利だ。

「やったー!!」

梨奈は思わず叫び声を上げた。

しかし黒姫組の組員たちが収まらなかった。 大勢の組員が彫甲を取り囲んだ。 一触即発の状況だった。

「やめんか!」

そのとき、組長の田所が一喝した。

「勝負はついた。彫甲の勝ちじゃ。それ以上とち狂うことは、このわしが許さん」

田所は彫甲の勝利を宣言した。 そして彫甲、梨奈、美琴は解放された。

「彫甲、あんたいい弟子を持ったな。その女彫り師のことじゃよ。わしが優遇するから、うちの専属にならんかと言ったら、『私は彫甲師匠の弟子です。師匠を裏切るつもりはありません』じゃとよ」

田所は彫甲の前で梨奈のことを褒めた。

「あーん、あたいも師匠の活躍、見たかったー」

梨奈から彫甲と三谷の熱戦のことを聞かされ、ヨーコがわめいた。

「俺たちだって見てないんだから。彫奈は黒姫組に捕まって、辛い思いをしていたんだから、試合を見られたのはまあその埋め合わせかな」

美好、彫青龍、彫光喜の三人は、彫筑が黒姫組の事務所に入ってから、2時間ほど外で待たされた。 2月の寒い時季だったので、BMWの中で暖を取った。

疾風韋駄天会の連中は街宣車に乗せてもらった。 街宣車に興味を持ち、愛国青護会のメンバーとはけっこう和気藹々とやっていた。 疾風韋駄天会の連中の中には、

「俺も右翼に入ろうかな」

と言う者もいた。

「俺たちの組織には、真にこの国のことを憂えて、日本のためなら命を投げ出せる覚悟がある者しか入隊できん。見た目のかっこよさだけで入りたいというのならば、やめておけ」

愛国青護会の隊員たちは、いい加減な気持ちでの入隊はお断りだと、疾風韋駄天会のメンバーを諭した。

彫甲の左腕は、しばらく療養が必要だった。 利き腕でなかったことが幸いだった。 彫甲が休養している間、代わりに彫筑が仕事を引き受けた。 組関係の客はおろそかにできない。 そして、今予約を受けている客の仕事が完成した時点で、八事道場では暴力団関係者への施術をやめることにした。 元暴力団員だった彫甲以外はすべて堅気なので、暴力団とは関係させたくないと、理解を求めた。

彫り物界の重鎮である彫筑が頭を下げたので、秋吉組も中京仁勇会も理解を示した。 それに、暴対法の影響を受けて、彫り物を入れる暴力団員が減ってきたこともある。

彫り物を彫りたい組員は、春日井道場で二代目彫甲こと彫青龍が引き受ける。 彫青龍はやくざ時代の彫甲の舎弟で、かつて暴力団に籍を置いていた。

「師匠、目は大丈夫ですか?」

美好は白内障を患っている彫筑を心配した。

「大丈夫だ。手術をしてから、けっこうよく見えるようになったからな。時々休憩を取れば、まだいける。福岡に帰ったら、また復活じゃ」

しばらく仕事を減らしていた彫筑が、復活宣言をした。

彫甲は傷が癒えたら、彫筑と一緒に福岡に行くことになった。 2年ほど、彫筑の道場で、もう一度修業をする。 修業といっても入れ墨の技術では彫筑にも劣らないので、人格を磨くための修業だ。 今回の事件の原因は、彫斉に対する、彫甲の度が過ぎた嫌がらせだった。

彫斉の件だけでなく、いろいろな問題が彫筑の耳に入っていた。 梨奈を監視役につけたのも、それを知り、改めさせるためだった。

彫甲は彫筑の道場で、また一から出直しだ。 彫筑の弟子としては筆頭で、技術面では、彫甲の右に出る者はいない。 しかし道場での序列は最下位になる。 今まで弟弟子だった者や、さらに新しく入門した者よりも下に格付けされる。 その中で、ふてくされることなく、その屈辱に耐えて人間性を向上させろ、という厳しいものだった。

八事道場は彫甲が抜けるため、美好が“彫好”として復帰し、一門の総帥代理となる。

「自分にはあまり才能がないし、彫り師としては10年近いブランクがあるので、とても無理です」

美好は一度は辞退した。

「美好は自分では才能がないと決めつけているが、才能がない者をわしは彫り師としては認めたりはしない。彫好の名を与えて、一門の彫り師に取り立てたのは、豊かな才能があるからじゃ。おまえが彫り師を辞めて最も残念に思ったのはこのわしだ。ブランクがあるといっても、おまえほどの才能があれば、すぐに感覚を取り戻せる」

こう言って彫筑は彫甲一門の総帥代理として、美好を強く推薦した。 美好の総帥代理就任に、門下生全員が賛成した。 結局美好は彫好として現役復帰することになった。

子供たちのめんどうを見てもらうため、美好は両親に同居してもらうことにした。 今までは近所とはいえ、両親は別の家に住んでいた。

美好が彫甲入れ墨道場に行けば、武甲山に女将がいなくなってしまう。 彫甲は新しい女将として、美琴を推薦した。 美琴は小料理屋を経営しており、女将として十分やっていけるだけの経験がある。

武甲山に夫の愛人が三人も集まってしまい、美好としては彫甲の愛人に店を乗っ取られるような気がして、おもしろくなかった。 けれども彫甲と一緒に福岡に行かれるよりはましだ。 それに今回の事件が解決したのは、美琴の機転があったからだ。 美好は美琴が新しい女将になることを了承した。

「あーあ、私ってつくづくお人好しなのかな」

夫の愛人を三人も店で引き受ける自分を、美好は揶揄した。

彫甲のことだから、福岡でまた新しい愛人を作るかもしれない。 今度浮気をしたら、絶対離婚をする、と美好は夫をきつく脅かしておいた。

また、美好の父親も武甲山を手伝ってくれることになった。 今は若い経営者に店を譲ったとはいえ、父親の博多ラーメンの店は、福岡ではおいしいことで有名で、繁盛していた。 その経験は武甲山でも生かされるだろう。 66歳とはいえ、隠居してしまうにはまだ惜しい。

元々武甲山が開店した当時は、父親が調理などで店を主導していた。 二人の板前を鍛え上げたのも父親と彫甲だった。 彫甲は部屋伝統のちゃんこの味を伝授した。

彫筑が名古屋にいる間、彫浪が何度も武甲山に来て、旧交を温めた。 コージやジュン、リョーコも連れてきて、梨奈や彫光喜たちと交流をしたこともあった。



「おまえたち、俺は2年で戻ってくる。そのときはおまえらにふさわしい師匠となっているよう、頑張るからな。それまで、美好を支えて頑張ってくれよ。ときには名古屋に帰ってくるけど、おまえたちも福岡に遊びに来てくれよな。向こうに着いたら、明太子送ってやるぞ」

いよいよ福岡向けてに出発するとき、彫甲は梨奈たちに言った。 彫筑と彫甲を見送るために、彫甲一門全員が中部国際空港に来ていた。

「師匠、お元気で。俺も二代目彫甲の名に恥じないよう、精進します」

彫甲を見送るとき、柄にもなく彫青龍が涙を流した。

初めて中部国際空港に来た梨奈は、愛知県にも大きくて立派な空港ができたものだと感動した。

空港は世界につながっている。 今は日本の彫り師も、世界中のタトゥーアーティストと交流を持っている人が多い。 梨奈もいつかはタトゥーを通じて、世界に羽ばたこうと心に誓った。

彫好が総帥代理となり、八事道場はぐっと明るくなった。 店の内部も、入れ墨道場からタトゥースタジオといった雰囲気に改装した。 暴力団関係者が来なくなった分、客は減ったが、堅気の人が入りやすいスタジオとなった。 女性客も増えた。

彫好は洋子の肌で練習し、現役時代の感覚を取り戻した。 洋子は髪を伸ばす前に、彫好の練習として、頭に赤い大輪の牡丹を彫ってもらった。 弟子入りする前は、頭に彫られることをいやがっていた洋子だが、今はきれいだと喜んでいる。 洋子は一生タトゥーアーティストとしてやっていく覚悟だ。

梨奈も洋子も髪を伸ばし始めている。 梨奈はまだ頭の牡丹が完全に見えなくなるほど髪が伸びていないので、ときにはかつらも使用している。

スタジオの雰囲気が明るくなり、訪れた真理子がぜひここでタトゥーアーティストとして修業したいと願い出た。 会社は3月末で退職するという。 最近上司に背中にタトゥーをしていることがばれて、風当たりが強くなった。 整理箱から書類を取り出すためにしゃがんだところ、背中がはだけて、天女の絵を同僚たちに見られてしまったのだ。

彫光喜以外は女性ばかりになってしまうが、彫好は真理子の決意を見て、弟子入りを認めた。 絵の上手下手よりも、まずはやる気を大事にしたいと彫好は考えている。 真理子は4月から入門することに決まった。 アーティスト名は希望通り、“魔梨愛”となる。 彫好は“彫”がつく名にこだわらない。

最近は時々外国人の客も来るので、英語が堪能な真理子に来てもらえるのは心強かった。 今は外国人が来ると、梨奈がたどたどしい英語で対応している。

3月11日、東日本は未曾有の巨大地震に襲われた。 午後、梨奈たちは施術中に大きな揺れを感じて肝を冷やした。 ひょっとして東海、東南海地震では、と思った。 非常に長く揺れが続いたので、このあと、激しい揺れが来るのでは、と懸念した。 万一の場合、客をどのように安全に誘導するか。 そのことを一番に考えた。 しかし大事に至らず、揺れは収まった。

夕食のとき、テレビのニュースを見て、東北地方を中心に大地震が起こったことを知り、一同はびっくりした。 津波の被害も甚大だった。

名古屋地方は大きな被害はなかったとはいえ、日本はこれから厳しい試練に立ち向かうことになる。

一タトゥーアーティストとして、被災した人たちのためにどれだけの貢献ができるかわからない。 けれども梨奈は日本の一員として、これからの困難を乗り越え、世界に飛び立っていきたいと決意を新たにした。

― 完 ―

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Posted at 2013年09月06日 10時00分