TATTOO COLUMN



第11話 彼岸 ▼
前回までのあらすじ----------
 
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三月中に梨奈の胸割を仕上げろ、という彫甲の命令をうけ、彫光喜は梨奈の胸割の入れ墨に専念した。

梨奈に与えられた課題は、彫光喜の背中を日本伝統の彫り物の様式、額彫りとして仕上げることだった。

梨奈は果敢に取り組んだ。

初めて彫光喜の背中に菊の花の筋彫りをしたときには、すでに彫甲の作品である騎龍観音が入っており、それを飾るだけ、ということで、ある意味気が楽だった。

もちろん師匠の絵を飾るのだから、下手な絵は彫れない、というプレッシャーはあった。

ところが額彫りのラインを入れるため、背中から腰、臀部、太股と大きな範囲をデザインしなければならないことになったとき、梨奈は戸惑った。

和彫りという巨大な壁を眼前にしているような感じだった。

和彫りということもあるが、背中一面の大面積を彫らなければならないという重圧感に押しつぶされそうになった。

菊の花で飾ったときとは、天地の違いがあった。

以前、ジュンが初めて客の背中一面に大きな鳳凰を依頼されたとき、大変なプレッシャーを感じたという話を聞いたが、梨奈も師匠の絵を完成させることが大きな重荷と感じられた。

ジュンの場合は、真っ白なキャンバスを、ゼロから彫らなければならないという苦労があった。

彫光喜の背中を前にして、梨奈はジュンの苦悩が改めて実感できた。

しかも愛する人の背中だ。

失敗すれば、この先ずっと後悔し続けることになる。

下手なものは彫れない。

もちろん、客の肌でも失敗は許されないことには変わりないのだが。

彫光喜は下手に励ませば、かえってプレッシャーになると思い、あえて梨奈に声をかけなかった。

梨奈に気が済むまで、背中をデザインさせた。

困ったときだけ、相談に乗った。

梨奈はデジカメで写した写真を大きく印刷し、そこに額彫りのラインを引いた。

雲や波、稲妻なども加えた。

その中で、梨奈がいいと思ったものを何枚か彫光喜に見せ、二人で一枚を選んだ。

それに基づき、彫光喜の肌に直接下絵を描いた。

しかし写真と実際の肌は違い、なかなか思ったようにデザインできなかった。

写真に描き加えた線は、平面である写真上ではいいと思われても、実際の肌にそのとおり描いてみると今ひとつだった。

「すみません、何度も何度も。

光喜さんもずっと立ったままで疲れるでしょう。」

「いや、俺は平気ですよ。

これも勉強だから、彫奈が納得できるまで、とことんやってくださいよ。

俺も付き合います。」

そうこうしているうちに、彫甲が仕事を終え、二階に上がってきた。

そして近くにあった座椅子にかけて、梨奈の作業を監視した。

彫甲はなかなか作業が進まない梨奈に業を煮やした。

「彫奈、何を悩んでいるんだ。おまえは考えすぎだ。ちょっと貸してみろ。」

彫甲は筆ペンを梨奈から受け取ると、すらすらと彫光喜の背中に下絵を描いた。

傍目では、なにも考えずに、ただペンを運んでいるだけのように見えた。

ほんの数分で、見事に額の筋がつけられた。

「基本さえ頭に入っていれば、何も悩まなくても簡単にできるんだ。」

彫甲は梨奈に模範を見せた。

さすが師匠、今の私ではとてもかなわない、と梨奈は脱帽した。

「さあ、やってみろ。あまり考えすぎず、リラックスしてやればいい。」

彫甲は筆ペンを梨奈に返した。

そして自らが描いた絵を、グリーンソープを使って拭き消した。

梨奈は師匠の見ている前で絵を描いた。

リラックスしろ、と言われても、師匠が見ていると、余計に緊張した。

梨奈はさっき彫甲が描いたとおり、復元してみようと思った。

しかしなかなかうまくいかなかった。

また描いては消し、描いては消し、を繰り返した。

「おい、何をやっているんだ。そんなことでは和彫りはできんぞ。あれこれ考えず、基本どおりさっさと描けばいいんだ。いつまでもかかっていては、光喜がたまらんだろう。」

座椅子に座って見ていた彫甲が怒鳴った。

(ああん、師匠ががたがた言うんで、余計緊張しちゃうんだわよ) 梨奈はもうどうにでもなれ、という気持ちで、殴り描きした。

観音像の頭の上に雲を描き、稲妻を入れた、腰や臀部、太股には波を描いた。

そして適当に額のラインを引いた。

すべては流れに沿って、自然にできたことだった。

「お、今度はいいね。そうだ。それでいいんだ。それこそ自然の流れだ。あれこれ考えすぎず、自然の流れに任せればいいんだ。それを清書して、さっそく筋彫りしろ。清書するときは、もうちょっと丁寧にな。もう見ている必要はないから、俺は下に行くぞ。」

師匠の

「何も考えずに、自然の流れに任せろ。」

という、考えようによっては、これ以上難しいことはないと思われる助言ではあったが、開き直って描いたことが幸いした。

梨奈はあれこれ考えるより、まずは思うままに描いてみればいいんだ、と開眼した。

もちろん何度も何度も描き直し、基本的な構成が頭に入っていたからこそ、できたことだった。

確かに私は額をつけるためにいろいろ勉強した。

彫甲流の基本は習得しているので、考え込むよりは、まず頭に浮かんだままを絵にしてみるのもいいのかもしれない。

梨奈は今度は肌用のマーキングペンで、慎重に清書した。

「彫奈、いいですね。それじゃあ、さっそくお願いしますよ。」

できた絵を姿見で見ながら、彫光喜が言った。

梨奈は筋彫りを始めた。

 初めて額彫りのためのラインをつけたときにはプレッシャーを感じ、苦労をしたが、その後は順調だった。

とはいえ、愛する人にいい加減なものは彫れない、という意識が常に頭にあり、梨奈は真剣そのものだった。

また、彫光喜が梨奈に彫るときも全身全霊を傾けた。

二人がお互いの身体に彫るときは、まさに火花が散るような真剣勝負だった。

そんな様を見て、彫大海は

「いや、いつも光喜と彫奈は気合いが入ってるね。俺にもいい刺激になるよ。」

と賞賛した。

そして師匠との約束どおり、彫光喜は三月末日の、梨奈の誕生日に胸割をきれいに仕上げた。

完成したのが自分の誕生日だったということが、梨奈はうれしかった。

彫光喜からの最高の誕生日プレゼントだ。

短期間で大きな入れ墨を彫られ、いかに梨奈でも、本音を言うと少し辛かった。

しかし、彫光喜が全力投球で彫ってくれる愛を、梨奈は全身で受け止める、というつもりで施術に臨んだ。

胸割で手首まで入れ墨が入った身体を姿見に映した梨奈は、

「私もすっかり彫り師の身体になっちゃったんだ。でも、これも光喜さんの愛の結晶だと思うと、とても嬉しい。」

と感激した。

彫光喜の背中ももう黒く染まり、今は騎龍観音に色を入れている。

彫甲は梨奈に、

「おまえも和彫りの彫り師なら、身体に龍を彫れ。」

と言って、彫光喜に、梨奈の腹部に龍を彫ることを命じた。

梨奈はほとんど全身、タトゥーで埋まってしまった。

「彫奈には全身に彫り、日本一の入れ墨女にして、彫甲入れ墨道場の広告塔になってもらう。まあ、メインの背中が落書きなのは、気に入らんがな。」

彫甲は梨奈に言い聞かせた。

梨奈は師匠がジュンの作品を軽んじるのには不服だった。

他の彫り師の悪口を言わなければ、多少性格に問題があるとはいえ、そんなにわるい師匠ではない。

師匠が日本一の入れ墨女にする、と言い出した以上は、本当に全身にくまなく彫られてしまうだろう。

ここまで大きく墨が入ってしまったからには、これ以上増えても大して変わりはない。

梨奈は観念した。

もう彫り師になったことを両親に隠しておくことはできないと、梨奈は覚悟した。

ばれたらばれたときのことだ。

そのときは、両親に正直に打ち明けよう。

でも、顔だけは絶対彫らせない。

今でさえ、頭に彫った牡丹が少し額にはみ出している。

ピアスの代わりに耳たぶに小さく彫るぐらいなら我慢するが。

でも全身入れ墨の広告塔にするということは、この先ずっと髪を伸ばすことを許されないのではないか? 梨奈はその点が気がかりだった。

頭は牡丹などの入れ墨がきれいに見えるよう、毎朝電気シェーバーで剃られている。

坊主頭の自分にかなり慣れたとはいえ、やはり髪を伸ばしたい。

彫り師ではあっても、私は女だ。

梨奈が敬愛してやまないジュンは顔、頭以外のほぼ全身にタトゥーが入っている。

タトゥーがないのは手のひら、足の裏ぐらいだ。

ジュンのタトゥーは女性として日本屈指だろう。

彫甲は約束通り、正規の彫り師として、彫光喜に客を彫らせてくれた。

初めての客は、川崎紀正の会社の先輩だった。

彼は背中にきれいな女性を彫りたいと希望して、綱出姫を依頼した。

プロとしてのデビュー作が、いきなり背中一面だ。

綱出姫の下絵を作るため、彫光喜は一週間その絵に没頭した。

その客に最初に対応した彫青龍は、彼を自分の客にしようとしたが、紀正の紹介なので、彫光喜を指名した。

自分の客とできなかったことで、彫青龍はしばらく機嫌が悪かった。

紀正は安い料金で左右の腕に龍と虎を彫ってもらい、すっかり彫光喜に心酔した。

彼は光喜のことを

「先生。」

と呼んでいた。

「先生はやめてくださいよ。照れくさいから。」

彫光喜は頼んだが、紀正は先生という呼称をやめなかった。

「先生でいいじゃないっすか。俺、先生に惚れました。それから牡丹さんにも。昔のゾクの仲間にも彫りたいというやついますから、そのうち先生や牡丹さんに紹介します。」

紀正は梨奈のことを、以前の呼び名で

「牡丹さん。」

と呼んだ。

梨奈の最初の客であった真理子は、今、左右の太股に赤と黒の大きな鯉を彫りに来ている。

波や水しぶき、牡丹なども添えて、和彫りふうにデザインしてある。

将来梨奈のように、背中に鳳凰か天女、もしくは観音様を彫りたいと言っている。

やはり見えないところだけでは収まらなかったかと思った。

しかし梨奈は自分自身のことを考えると、真理子の気持ちがよく理解できた。

真理子も生理的にタトゥーが大好きなのだろう。

梨奈は自分の肌に針で色素を刺し入れて、美しい絵が広がっていくところを想像すると、ゾクゾクとするような、性的な快感を覚えた。

タトゥーを彫ることは、ある意味、男女の愛の営みにより、子どもが生まれる、ということにたとえられた。

美しい絵こそが、愛の行為によって生まれる子どもであった。

彫光喜に彫ってもらっているときには、特に強く感じられた。

真理子もきっと同じなのだろう。

梨奈がジュンを敬愛しているように、真理子は梨奈に心酔していた。

梨奈も彫光喜も、だんだん仕事量が増えていった。

特に女性客の多くは、彫り師として彫奈を希望した。

最近では彫青龍や彫大海より指名が多くなった。

ワンポイントばかりではなく、男性客から大きめの和物の依頼を受けることもある。

梨奈は彫青龍の嫉妬をひしひしと感じるようになった。

「彫奈は女だから、女性客の依頼を一手に引き受けられていいな。男も色気で釣れるし。」

梨奈の客が多いのは腕がいいからではなく、女という武器にものを言わせているからだとばかりに、彫青龍はあからさまないやみを言った。

タトゥーを彫る技術は梨奈のほうが上だが、和彫りに関しては、彫青龍や彫大海に一日の長がある。

それがわかっているので、梨奈としては、彫青龍をできるだけ立てるように心がけている。

彫甲入れ墨道場が休みの日に、梨奈は久しぶりにバイクギャングのメンバーたちと会った。

場所は沙織が勤務する中区錦三のクラブだ。

彫光喜も一緒に行った。

昼間は彫光喜のクルマで、岐阜県養老町の養老公園に行ってきた。

道場の関係者たちに見られないように、デートは遠いところになってしまう。

二人はリフトには乗らず、歩いて養老の滝まで登った。

滝は落差32メートル。

その日は晴れて暑く、滝のあるところまで登ると汗ばんだが、滝の近くはひんやりしていた。

平日なので、それほど人出はなかった。

帰りは彫光喜のR2を梨奈が運転した。

梨奈がクルマを運転するのは久しぶりだった。

梨奈は時々父親のカローラを借りて運転するので、運転には慣れている。

梨奈は自分のクルマを買いたいと思うが、背中に鳳凰のタトゥーを彫ったことで、貯金の多くを使ってしまった。

彫光喜は

「わざわざ買わなくても、俺のR2に乗ればいいよ。」

と言ってくれた。

「ただ、道場の近くではあまり乗せられませんがね。」

と残念がった。

「軽を運転するのは初めてだけど、小回りがきいて運転しやすいですね。でも、軽は同じ速度でも、普通車よりずっと速く感じて、ちょっと怖い気がします。」

「軽は維持費も安いし、燃費もそこそこいいし。高速道路や急な上り坂を走るときは、パワー不足を感じることがあるけど。将来、俺たちの家族ができるまでは、これで十分ですよ。速く感じるのは、じきに慣れますよ。」

俺たちの家族という言葉を聞き、梨奈は私たちの子供のことかしら、と期待した。

早く伸吾さんと結婚して、子供を作りたい。

そう考えると、梨奈の心はときめいた。

いったんクルマを彫光喜のアパートの駐車場に入れてから、地下鉄で栄まで行った。

アルコールが入るので、クルマでは行けない。

万一二人が一緒のところを見られるといけないので、離れて沙織のクラブまで行った。

彫光喜は以前政夫と七海に会ったことがあるが、他のメンバーと会うのは初めてだ。

沙織が勤めるクラブ、“由香利”は会員制なので、彫甲の客などに鉢合わせになる可能性は低い。

もし知人が来たら、俺も彫奈もバイクギャングロッカーズのファンなので、バイクギャングのメンバーに会っていたと言い抜けるつもりだ。

その点はバイクギャングのメンバーも心得ていて、もし何かあった場合は、俺たちが証言してやるよ、と請け合った。

沙織が全員のグラスにウイスキーを注ぎ、水割りで乾杯をした。

達義がキープしているボトルだ。

「初めまして。俺がバイクギャングのリーダーをやっている則武達義、通称タツです。よろしく。」

最初に達義が彫光喜に挨拶をした。

そして、富夫、康志が続いた。

女性たちも淑乃、直美が男性たちのあとで自己紹介をした。

「今日は由香利のホステスという立場だけど、私はタツのフィアンセの綾戸沙織です。よろしく。ここでの源氏名はマミヤです。」

最後に沙織が挨拶をした。

沙織は背中が大きく開いている衣装を着ており、天女の一部が覗いている。

右手首のバラや、梨奈が彫った胸の四つ葉のクローバーも露わになっている。

沙織のタトゥーを目当てに来る客も多い。

「梨奈、電話やメールで、いつも小野田さんのこと、のろけてばかりいますよ。」

「いやだ、七海。そんなこと、ばらさないでよ。」

七海のすっぱ抜きに、梨奈は赤くなった。

彫光喜ももじもじしていた。

そして一同ははやし立てた。

「今まで俺たちの会合で、梨奈だけが独りだったんで、彼氏ができたのはいいことじゃないか。まあ、梨奈は俺たち全員のアイドルでもあったけど。みんな、梨奈のタトゥーが入ってるんだし。」

達義が言った。

彫光喜は一昨年の大名古屋タトゥー大会でライブを聴いて以来、バイクギャングロッカーズのファンだと打ち明けた。

「去年は俺がちょうど彫甲に弟子入りしたころだったんで、行けませんでした。師匠にほかの一門のコンベンションなど、見る必要ない、と言われましたし。」

大名古屋タトゥー大会はコージの師である彫浪が主催し、彫浪一門に協賛するアーティストたちが参加していた。

バイクギャングロッカーズのメンバーたちもコージなど、彫浪一門のアーティストに彫ってもらっており、ここ数年、大名古屋タトゥー大会でライブを開催している。

「いやあ、小野田さんも俺たちのファンだったとは嬉しいですね。聞くところによると、俺たちと友好関係にある、疾風韋駄天会の連中も彫光喜さんや彫奈に彫ってもらっているそうですね。」

達義はあえて彫り師としての名前で尋ねた。

「はい。ノリが宣伝してくれましてね。彼ら、豊橋とか蒲郡など、遠いところからなので、来るだけでも大変みたいです。まあ、彼らにとって、八事までバイクで走るのも楽しみですが。」

「ノリか。あいつ、浜辺で俺にのされたやつだけど、元気でやっとるようですね。」

赤羽海岸で川崎紀正と激しくやり合った政夫が懐かしんだ。

少し前に、疾風韋駄天会のメンバーに、強引に彫青龍が彫ろうとしてもめたことがある。

最初に対応した彫青龍が、

「彫光喜はまだ彫り始めたばかりで、素人に毛が生えたようなもんだ。同じ料金で彫ってやるから、うまい俺のほうがいいだろう。」

とごり押しをした。

ちょうどそのときは、彫青龍に予約の客がなかった。

「いや、俺は彫光喜さんにお願いしに来たんです。仲間が彫光喜さんに彫ってもらった龍や虎を見せてくれたんですが、うまいじゃないですか。俺的には、十分ですよ。」

韋駄天会のメンバーは彫光喜を希望した。

「素人目にはよく見えても、彫り始めたばかりの未熟の彫光喜じゃ、やっぱり仕上がりが全然違う。俺のほうがずっとうまくできるぞ。あいつは彫光喜じゃなく、彫むつきだね。つまり、まだおしめがとれないってことだ。せっかくうまい俺が彫ってやるというんだから、ありがたく思え。」

それでも彫青龍は恩着せがましく言った。

彫青龍は何としてでも、彫光喜から客を奪おうとしていた。

自分に客がなく、弟弟子が仕事をしていては、兄弟子としての沽券に関わる。

「ちょっとひどいじゃないですか? あんたも先輩なら、後輩のことをもっと立ててやるべきですよ。俺たち暴走族は上下の関係は厳しいけど、後輩には目をかけてやってるんです。特に俺たち疾風韋駄天会は仲間の結束を重んじていますからね。その仲間が彫光喜さんはうまいと言ったんだから、俺は信じますよ。」

それでも彼は彫光喜にこだわった。

「素人にうまい下手はわからん。入れ墨というものは、一度彫れば、死ぬまで肌に残るもんだ。下手なやつに彫ってもらって、一生後悔するんじゃ、割に合わないだろう。せっかく俺がやってやる、と言うんだから、ありがたく言うことを聞け。」

彫青龍はさらに強引に言った。

「俺は彫光喜さんにお願いしたいと言っているんだ。なのになんでおまえがぐだぐだ言うんだ。」

これまで下手に出ていた韋駄天会のメンバーが、少し声を荒らげた。

彫青龍はまだ経験が浅い彫光喜に代わって、同じ金額で、ずっと上手な俺が彫ってやると言えば、喜んで彫らせてくれるだろうと考えていたので、その男の剣幕に、たじろいた。

「俺はおまえのためを思って言ってやってるんだ。そんな言いぐさがあるか。入れ墨は一生ものなんだぞ。だから親切に忠告してやってるんじゃないか。」

「何が親切だ。要するにおまえは俺を自分の客にしたいだけなんだろ。」

彼は彫青龍の胸ぐらをつかんだ。

図星を指された彫青龍は、これには慌てた。

その騒ぎを聞きつけ、彫光喜と梨奈が階下に下りてきた。

「あら、本田君じゃないの。」

彫光喜から今日疾風韋駄天会のメンバーの一人が来ると聞いていた梨奈は、彫青龍に突っかかっていた本田を見て、声をかけた。

「あ、これは牡丹さん。ご無沙汰です。」

本田は彫青龍の胸ぐらから手を放して、梨奈に丁寧にお辞儀をした。

本田は夏の赤羽海岸で、直美を追いかけ回して、直美がおぼれるきっかけを作った張本人だった。

本田はそのことで、直美と康志には何度も丁重に詫びている。

「あ、本田さんですね。お待ちしてました。」

彫光喜も本田に挨拶をした。

彫青龍は<br />

「フン。」

と鼻を鳴らし、二階に上がっていった。

「あのメガネ、ひどいやつですね。彫光喜さんのこと、さんざん馬鹿にして、代わりに俺が彫ってやるだなんて。俺は彫光喜さんに彫ってもらいたくて来たのに、ふざけてますよ。」

「兄弟子が何か気に障ることを言ったんですね。すみません。俺からも謝ります。許してやってくださいよ。」

「あのメガネはいけ好かないけど、彫光喜さんは気に入りましたよ。やっぱりノリが言ってたとおり、さっぱりしたすがすがしい人ですね。」

本田は機嫌を直した。

彫光喜と本田は、待合室で絵の打ち合わせをした。

彫光喜ももう正規の彫り師として認められたので、紀正に彫ったような格安の料金ではできない。

そのことは本田も承知していた。

今はそれほどお金に余裕があるわけではないので、大きなものは彫れない。

しかし小さくても立派なものを彫りたい。

二人で話し合った末、左の肩から上腕にかけて、鳳凰を彫ることになった。

本田は赤羽海岸やタトゥー大会で見た、梨奈の華麗な鳳凰が目に焼き付いて、離れなかった。

上腕部いっぱいの鳳凰なので、施術は一回三時間では終わらなかった。

今回はラインと色の一部だ。

傷の回復を考慮し、二週間後に続きを彫ることとなった。

「絵が込み入っているので、完成まであと二回かかると思いますが、師匠には内緒で、少し安くしておいてあげますよ。」

「お願いします。さっきのメガネ、彫光喜さんは未熟だから、彫ってもらうと後悔する、なんて言ってましたけど、いいじゃないですか。うまいですよ。完成が楽しみです。俺もこれから彫光喜さんのこと、ノリみたいに先生と呼ばせてもらいます。牡丹さんにもレディースを紹介します。バラ入れたいってやついますから。そいつ、俺の彼女ですけど、前に赤羽海岸で牡丹さんに会って以来、牡丹さんに憧れてるんです。今度一緒に連れてきます。」

本田は満足して帰っていった。

彫青龍は自分より10歳以上年下の暴走族の若造に馬鹿にされ、収まらなかった。

しかしこの出来事は、彫青龍に疑惑を生じさせた。

梨奈が本田を知っていたことに関する疑問だった。

「俺でも知らなかった本田のことを、なぜ彫奈が知っていたか。光喜と彫奈はつながっているに違いない。師匠は恋愛は厳禁だと言っていたのに、あの二人はできているんじゃないか? よし、きっとあいつらの尻尾をつかんで、師匠にチクってやる。」

彫甲が安く彫ってやれと紹介した紀正が、たまたま梨奈の知り合いであり、本田もその仲間であるので、梨奈が本田を知っていても何の不思議もないことだった。

だが、そのことを知らない彫青龍は邪推した。

自分を追い越しかねない二人を許せなかった。

何としても蹴落としてやる。

その後、本田や紀正の紹介で、ときどき疾風韋駄天会のメンバーが彫甲入れ墨道場にやってきた。

彫る場合は彫光喜か梨奈を指名した。

韋駄天会の一人、鈴木は背中に大きく“惡”一文字を彫ることを、彫光喜に依頼した。

人気マンガの影響だが、さすがに一生背中に“惡”を背負い続けるのはまずいのではないか、と梨奈と二人で説得した。

暴走族をやっている今ならまだしも、将来社会に出たとき、“惡”という字を背中に背負っていては、やはり都合わるいだろう。

結局鈴木は龍に変更することを了承した。

料金は高くなるとはいえ、龍のほうが生涯背負い続けるにはいいだろう。

そう鈴木は考え直した。

一週間後の土曜日に予約を取り、それまでに龍の下絵を作っておくと彫光喜は約束した。

鈴木は今、高浜に代わり、疾風韋駄天会のヘッドを務めている。

客の依頼を一度断ったことで、鈴木が帰ってから、彫青龍に

「なぜ客の依頼を聞いてやらないのだ?」

と怒鳴られた。

「お客さんに後々後悔してもらいたくないから、よく話し合ったんです。」

梨奈が説明した。

「別の図柄に変更してくれたからよかったものの、もし彫ること自体をやめてしまったらどうする気だ? あとから後悔しようが、客の責任だ。そのために同意書を取ってあるんだ。来週、すっぽかされてしまったら、おまえらに料金分を弁償させるぞ。」

しかし彫光喜と梨奈はその考え方には従えなかった。

「それじゃあ青龍さんは、お客さんがあとから絶対後悔するとわかっているような絵を依頼された場合でも彫ってしまうんですか? たとえば人間の排泄物を彫ってくださいと言われても。」

彫光喜は反論した。

彫青龍はさらに頭に血が上った。

「俺はプロだ。依頼されれば何でも彫る。」

「そうですか。でも俺にはできません。後悔するとわかっている図柄なら、そうアドバイスするのもプロだと思います。」

「おまえは生意気だぞ。そもそも、なぜ光喜の客なのに、彫奈が一緒にいるんだ? おまえらはいつも一緒にいるが、二人はできているんじゃないのか? 師匠は弟子同士の恋愛を許していないはずだ。」

「鈴木君はもともと私の知り合いだったんです。彫り師として光喜さんを指名したんですが、知人なので、私も図柄の相談に乗っていたんですよ。」

梨奈は彫青龍にわけを話した。

しかし彫青龍は二人の仲に疑問を持ち始めたので、お互い注意しよう、と彫光喜とそっと目配せをし合った。

梨奈も鈴木や本田たちの紹介で、疾風韋駄天会のメンバーにワンポイントなどを彫った。

レディースの山葉洋子は、本田が二回目の施術を受けるときに一緒についてきて、梨奈に右の太股に大輪のバラの花を二輪と蝶を彫ってもらった。

洋子は高校を中退しているが、18歳になっているので、施術は問題ない。

喫茶店でバイトをしながら、疾風韋駄天会の仲間とツーリングを楽しんでいる。

「今はあまりお金がないから、大きなものは彫れないけど、いつかは牡丹さんみたいに全身に彫ってみたい。実はあたい、赤羽で牡丹さんのタトゥーを見て以来、牡丹さんに憧れてるんだ。そのうちにあたいを弟子にしてくださいね。でも、さすがに丸坊主にされるのはいやだから、牡丹さんが独立してからね。絵はあまり得意じゃないけど、今日から一生懸命勉強します。」

洋子は梨奈に弟子入りを希望した。

本田も

「洋子をよろしくお願いします。牡丹さんの弟子にしてやってください。」

と梨奈に頼んだ。

「小野田さんももう彫り師として活躍してるんですね。梨奈も頑張ってるし。将来、二人のスタジオを持たせてもらえるよう、期待してますよ。」

政夫が彫光喜にエールを送った。

「早く一人前と師匠に認められるといいですね。聞いた話では、弟子同士では恋愛禁止で、禁を破れば罰金50万円なんでしょう。二人で100万円か。しかし、めちゃくちゃな師匠ですね。」

「はい。師匠なら本当に払わされそうだから怖いです。」

富夫の問いかけに梨奈が応えた。

「ところで梨奈さん、腕に大きなタトゥー彫ったんでしょう。ここで裸にはなれないけど、ちょっとだけでも見せてくれない?」

クラブのホステスをしている沙織が梨奈にリクエストした。

梨奈は両腕の袖をまくった。

手首から肩まで、黒い闇に浮かんだ牡丹と蝶が見事だった。

また、襟を少しはだけ、胸の部分の一部を見せた。

胸割で、牡丹の花を雲と黒い闇が取り巻いていた。

腹部の龍も見せた。

龍はまだ少ししか色づけされていない。

最近はなかなかお互いを彫る時間が取れない。

「おお、すげぇ。これだとまさに本場物の“彫り物”だがや。梨奈はもうタトゥーアーティストというより、いっぱしの彫り師になった、って感じだな。」

康志が梨奈の彫り物に感心した。

「これ、筋彫りは師匠だけど、それ以外は伸吾さんに彫ってもらったの。おなかの龍はすべて伸吾さん。」

「俺の背中の騎龍観音も、ほとんど梨奈に彫ってもらったんですよ。」

「すげえな。恋人同士、お互いの肌に彫り合うなんて。」

と達義が言った。

「さすが彫り師の恋ですね。何かうらやましい。お互い、永遠に忘れられない記念を肌に刻みつけられるんだから。」

淑乃もうらやましがった。

二人のおのろけ発言で、場が盛り上がった。

「お母さんたちはそこまで彫ってること、知ってるの?」

梨奈の両親をよく知っている七海が、梨奈の胸割の彫り物のことで尋ねた。

「親にはまだ内緒。お母さんは背中の鳳凰のことは知ってるけど、さすがに頭や腕の牡丹のことは話せない。たまに家に帰っても、見つかるんじゃないかとひやひやしてる。夏は半袖着られないし。髪切ったの? と言われたけど、これがかつらだとばれるとまずい、とも思ってるんだ。ピオニー辞めたこともまだ話してないの。」

「モンスターママにねじ込まれて辞めた、なんて言えないよね。」

七海もピオニーでの事件は全くの災難だと思っている。

「ただ、同じようなことはうちの道場でも起こりうるので、ちょっと怖いけど。」

梨奈は彫光喜と顔を見合わせ、うなずき合ってから、少し前に彫甲が18歳未満の少年に彫ってしまったことを話した。

「どこかの組の親分さんに頼まれたみたいなの。うちの道場、いちおう建前は“暴力団関係者お断り”となってるけど、ときどき数字の“8”がつく自由業の人も客として来てるみたいなのよ。これはみんなを信頼して言ったことで、ここだけの話として、外では決して話さないでくださいね。彫った人が事件でも起こして、警察に18歳未満に彫ったことがばれたらやばいなって、ひやひやしてるの。うちの道場が閉鎖になったら、伸吾さんと二人でスタジオをやろう、と話しているんですが。」

「もちろん小野田さんや梨奈が不利になることは、絶対言わないよ。でも、二人でスタジオ経営できたらいいですね。」

リーダーの達義が代表で言った。

会は3時間ほどで解散となった。

梨奈は久しぶりにバイクギャングの仲間たちに会えたことが嬉しかった。

「梨奈、いい仲間がいて、うらやましいな。」

「何言ってるの。伸吾さんだって、もう私たちの仲間なのよ。」

「そうだぜ。小野田さんも俺たちの仲間だ。なあ、みんな。これからもよろしく頼みますよ。」

「そうだよ。よろしく。」

「お店にも来てくださいね。

安くしますから。」

達義の呼びかけに、みんなが応じた。

「仲間にしてもらった以上は、小野田さんじゃなく、『シンゴ』とか『シン』とか、気安く呼んでくださいよ。」

「わかった。これからはシンと呼びますよ。愛に殉じる星、南斗孤鷲拳のシンかな。」

政夫が伸吾に愛称をつけた。

バイクギャングのメンバーたちと別れ、彫光喜は梨奈のアパートに寄った。

ときどきクルマで梨奈を自宅まで送ることはあるが、中に入るのは初めてだった。

念のため、部屋に入る前には、周囲に誰もいないかを確認した。

もし彫光喜が夜遅い時間に、梨奈の部屋に寄ったことが知られれば、言い逃れができない。

部屋に入って、梨奈は熱いコーヒーを淹れ、ポテトチップの袋を破った。

「インスタントですみませんけど。」

「いえ、上等だよ。」

「今日は朝早くからありがとうございました。昼間は養老の滝に行ったり、夜は沙織さんのクラブでみんなと会ったり。でも、とても楽しかった。」

「俺もだ。ほんと、みんないい人たちばかりだね。俺もその仲間に迎えられて、嬉しいよ。もともとバイクギャングのライブを聴いて以来の、大ファンだったんだから、仲間にしてもらえるなんて、夢みたいだ。俺も何年か前に知り合っていたら、バンドに入れてもらっていたかな。」

彫光喜はコーヒーをすすりながら言った。

二人は今日一日のことを話し合った。

そしてこれからのことも。

「俺たち、もうお客さんに彫っているけど、師匠はまだなかなか一人前だと認めてくれないみたいだね。」

「そうですね。

大海さんも、青龍さんでさえまだ認められていないから。

一人前と認められなければ、私たちの交際は隠し続けなければならないし。」

「最近、青龍さんに疑問を持たれたみたいだから、気をつけなければ。道場では絶対気づかれてはいけないよ。道場外でも、気を抜けないし。」

「気づかれたら、やっぱり本当に50万円払わされるのかしら?」

「間違いないね。師匠なら、絶対請求するよ。だから、気をつけよう。罰金だけで済めばいいけど、下手すれば、もう彫甲入れ墨道場ではずっと窓際暮らしになるかもしれない。そうなったら辞めて二人でスタジオを開いてもいいけど、たぶん妨害されるだろうし。ところで、青龍さんを独立させて、新しい道場を持たせるって話、聞いてない?」

彫光喜は新しい情報をもたらした。

「え? そうなんですか? 私はまだ聞いてませんが。」

「まだ単なる噂で、俺も詳しいことは知らないけど。ちょっと聞きかじったところでは、まだ少し先の話だけど、どこかに新しい道場を作り、ヒゲメガと大海さんに任せるそうだって。」

「それだと、八事は師匠と私たちだけになるのね。」

彫大海と別れるのは寂しいが、梨奈のことを疎んじている彫青龍が、ほかの道場に移ってくれることは、正直ありがたいと思った。

梨奈としては彫青龍と、できればうまくやっていきたいとは考えているが、なかなか青龍は梨奈を受け入れてくれない。

今は梨奈のことを、自分を蹴落としかねないライバルだと思っているようだ。

「そうなったら、たぶん八事の道場に新しい弟子を入れると思うよ。レディースのヨーコ、弟子になりたがってたじゃない。」

「ヨーコ、師匠の弟子だと、頭剃られて入れ墨彫られそうだから、師匠の弟子にはなりたくない、私が独立したら弟子にして、って言ってたわ。」

梨奈は笑った。

「でも、私たちも早く認められて、二人の道場、持たせてくれるといいわね。私も早く髪伸ばしたい。かつらじゃいやだから。八事にいたら、いつまでも広告塔として、丸坊主のままでいさせられそう。」

「そうだね。やっぱり梨奈は髪があるほうがずっと魅力的だから。当然のことだけど。」

そう言いながら、彫光喜は梨奈に軽く口づけをした。

しばらく話し合ってから、彫光喜は帰ろうとした。

「伸吾さん、今夜はうちに泊まっていって。もう帰りの電車もないし、タクシーで大曽根まで行くの、けっこう高いでしょう?」

梨奈は帰ろうとする彫光喜を押しとどめた。

「でも、ちょっとまずくないかな。」

彫光喜はためらった。

「大丈夫よ。青龍さんたちが見張っているわけじゃないし。明日、早めに起きて、いったん伸吾さんが家に戻ってから道場に行けばいいじゃない。大曽根までなら、中央線ですぐだから。せっかくうちまで来たんだから、泊まっていってください。」

梨奈は彫光喜に懇願した。

彫光喜の心は大きく傾いた。

「うん。今夜は泊まっていこう。朝六時前に起きて、いったん家に戻って、それから道場に行けば大丈夫だ。まさか早朝の駅や電車の中で、知人に見られることもないだろうし。」

彫青龍は道場から近い、天白区のアパートに住んでいるから、出くわすことはないだろう。

二人は狭い浴室に一緒に入った。

そしてお互いの身体のタトゥーを見つめ合った。

梨奈の胸割は完成しているが、腹部の龍や、彫光喜の背中は、まだ色づけがかなり残っている。

早くきれいに仕上げたい。

梨奈はそのことを光喜に言った。

「そうだね。俺も早く、梨奈の手で完成させてほしいよ。梨奈の龍も完成させてあげたいし。そのときが楽しみだな。」

最近二人は予約が入っていたり、飛び込みの客に対応したりしているので、あまりお互いの身体を彫る時間が取れない。

「明日は二人とも予約が入ってないから、伸吾さんの身体を彫ってあげる。観音様に色づけね。私のおなかの龍も色、入れてね。」

彫光喜の額の部分は、黒のつぶしやぼかしが終わっている。

菊は赤やピンク、オレンジ、黄、青、水色、紫、白など極彩色だ。

しかしまだ龍と観音菩薩にあまり色が入っていない。

早く美しく仕上げたかった。

龍は黒を主体にして、蛇腹の部分を赤く色づけする。

梨奈の龍の色は赤だ。

蛇腹は黒の薄ぼかしにする。

青だと彫青龍を連想するので、赤い龍にした。

その夜、二人は初めて交わった。

梨奈にとっては、ずっと待ち焦がれた瞬間だ。

それは伸吾にとっても同様だった。

梨奈はとうとう悲願がかなって、感動の涙が止めどなく流れた。

初めて伸吾に会って以来、心の中に押しとどめていた熱き願いが、ついにかなったのだ。

極彩色に彩られた二人の身体が絡み合う様子は妖艶なものだった。

そして梨奈も伸吾も、至福の時間を過ごしたのだった……。

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Posted at 2013年06月28日 10時00分