第15話 失踪 ▼
前回までのあらすじ----------
-------------------
年末年始は予定通り、梨奈は伸吾と実家で過ごした。
一時は梨奈が彫り師となり、全身にいれずみを彫っていたことに激怒した父親の誠だが、今は娘のいれずみを受け入れていた。
将来の婿である伸吾と、和気藹々と酒を飲んだ。
梨奈は一人娘であり、結婚した場合、伸吾が速水家に入籍することが両家の間で了承されていた。
小野田家は伸吾の兄が継ぐ。
梨奈は誠に付き合い、日本酒で酌をした。
最近梨奈もけっこうアルコールがいけるようになった。
娘や将来の婿と酒を酌み交わしながら新年を迎えることができ、誠は満足だった。
母親の静子は手作りのおせち料理で伸吾をもてなした。
彫り師という仕事は気にならないでもないが、誠は伸吾の誠実な人柄を気に入っていた。
全身にいれずみを彫ってしまった梨奈にとって、伸吾は最高の婿だろう、と誠は考えていた。
遠くからかすかに除夜の鐘の響きが聞こえた。
新年を迎えたとき、静子が少しでも梨奈の苦労を分かち合いたいと、自分の太股にタトゥーを彫ることを申し出た。
その申し出に、誠も梨奈もびっくりした。
しかし静子の決意は固かった。
ずっと以前から考えていたようだった。
最初は妻がタトゥーを入れることに反対していた誠だが、結局彫ることを了承した。
娘とタトゥーの痛みを共有してやりたい、という妻の気持ちを理解したからだった。
誠自身は会社勤めがあるので、タトゥーを彫ることはできない。
万一タトゥーを入れ、会社でリストラ対象にでもされたら大変なことになる。
定年まであと7年、家族を経済的に支えるためにも、何とか無事勤め上げたい。
今は梨奈に酒が入っているし、マシンなどの機材は密柑山のマンションに置いてあるので、彫ることはできない。
明日の朝、自宅にマシンなどを取りに行き、それから施術することになった。
翌朝、雑煮とおせち料理で遅い朝食を済ませてから、梨奈は誠のカローラを借りて、密柑山の自宅にマシンやインクなどの機材を取りに行った。
その間、伸吾は両親と話をしていた。
元日で道はすいており、梨奈はスムーズに往復できた。
戻って一休みしてから、梨奈は静子と図柄について相談した。
刺青師牡丹-第15話 失踪の続きを読む